ケーブル耐油性試験
電線・ケーブルの寿命と性能に影響を及ぼす化学物質の中でも、油は特にダメージの大きい物質です。油は、工業環境およびインフラストラクチャ環境で冷却材や潤滑剤として多く使用されますが、ケーブルの絶縁体およびシースに使用されるポリマーに分子損傷を与えることがあります。
電線・ケーブルが耐油性に劣る場合、最終的には、ケーブル破損やダウンタイム、交換費 用などが発生します。
耐油性については、クーラントおよび潤滑油に対する耐油性を考慮したケーブルを選定する事が重要です。以下では、油によるケーブルの劣化、油浸漬問題の調査方法、長期にわ たる耐油性ケーブルの選定について説明します。
【油によるケーブル劣化のメカニズム】
なぜ油によってダメージを受けるもの、受けないものもあるのでしょうか?
ポリマー化合物は同じ族に分類されていても、すべて同じ性能があるとは限らないというのが主な理 由です。耐油性を含む物理的特性も多くの場合異なります。
例えば、一言で PVC といっても、その PVC 化 PVC 合物の中には、難燃性の高いものも あれば、耐油性や殉難性に優れているものもあります。PVC の配合は、目的の特性と用途 に応じて難燃剤(ヨウ素)、安定剤やフィラーなどを配合調整(コンパウンド)し目的の特性 を最大限発揮させます。ただし、特定の PVC 特性が強化されると、その他の性能特性が影 響を受けたり、完全に失われたりするといったマイナス面もあります。
特に耐油性においては、すべての電線・ケーブルの絶縁体が同等に作られているわけでは ありません。電気的特性や耐環境性、機械的保護(耐メカニカルストレス)、耐薬性などもコ ンパウンドによって異なります。また、絶縁化合物には、コンパウンドに可塑剤が特定量含 まれており、柔軟性と耐久性の向上に有効です。
一般的な PVC コンパウンドなどは、潤滑油およびクーラントにさらされると、材料が油 を吸収するか、可塑剤が化合物から拡散してしまいます。
図:油が吸収されると、化合物は膨張し軟化して引張特性が低下してしまいます。また油が複合可塑剤の拡散を引き起こすと、硬化が起こり、柔軟性および伸縮強度が完全に失われます。
シースに油が浸透し、絶縁体にまで油が浸透すると、絶縁破壊をおこし、効果的な絶縁体として全く機能しなくなってしまいます。絶縁体が機能しなくなると、人命だけでなく、接続されている産業機械の総合的機能にも非常に危険な状況を引き起こす可能性があります。これにより非常にコストの高いダウンタイム、修理、最悪の場合、機械全体の交換が必要になります。
【使用条件にも耐油性が左右する】
油が潤滑剤やクーラント、あるいはその両方を使用するアプリケーションも多くありま す。双方の一般的な用途としては、以下が挙げられます。
● 潤滑剤: 摩耗防止や円滑な動作のためにモーター駆動のギアシステムに使用されます。
● クーラント: 機械の旋盤加工中に金属が過度に熱くならないように使用します。
また、工場だけでなく、インフラストラクチャアプリケーションでも油にさらされる場合があります。例えば、風力タービンでは、ナセル内部の高い場所に設置されたケーブルは、 長期間にわたって潤滑油およびクーラントに常時さらされる可能性があります。
さらに、風力タービンなどの場合、極端な温度や他の化学物質にさらされることが多く、 油によるダメージをさらに加速させる可能性もあります。
油はケーブル損傷の原因の一つであり、多くの場合、温度などの他の劣化メカニズムと相互作用し、損傷を招きます。一般的に、油の接触率が激しく、周囲温度が高いほど、油による劣化が早くなります。
【油による損傷の回避】
油による損傷は、いったん受けてしまうと元には戻せません。しかし、耐油性を持つケーブルを選定することで防止できます。検討中のケーブルに使用されている特定のポリマー化合物に関する深い知識がなければ、どの製品に油の耐性があるかを見極めるのは困難です。
【目視による耐油性診断方法】
ひび割れ
可塑剤が完全に失われることにより、PVC が油やそのほかの化学物質にさらされることから発生します。絶縁体とシースが硬化し、ひびが入ります。
膨潤
可塑剤へ油が移動することにより、PVCが油やその他の化学物質にさらされることで発生します。絶縁体とシースの直径が著しく増します。
溶融
可塑剤の吸収および結合により、PVC が油やその他の化学物質にさらされることから発生します。化合物が軟化し、高弾性になります。
変色
絶縁体とシースの着色剤と一緒に可塑 剤が拡散することで、PVCが油やその他の化学物質にさらされることで発生します。
ここでは、参考に UL 規格による耐油試験について説明します。
【UL 規格による工業用耐油試験】
名前 | 試験方法 | UL要件 |
---|---|---|
UL62 | 7 日間 60℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 75%保持 |
UL Oil Res I | 4 日間 100℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 50%保持 |
UL Oil Res II | 60 日間 75℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 65%保持 |
UL AWM 21098 | 60 日間 80℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 65%保持 |
名前 | 試験方法 | UL要件 |
---|---|---|
UL62 | 7 日間 60℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 75%保持 |
UL Oil Res I | 4 日間 100℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 50%保持 |
UL Oil Res II | 60 日間 75℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 65%保持 |
UL AWM 21098 | 60 日間 80℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 65%保持 |
UL 規格や IEC 規格などで定義されている耐油試験は、基本的にシース材に耐油性があ るか無いかの判断となります。シース材に耐油性があれば、絶縁体に浸透せずにケーブル機 能が発揮できるという定義になります。
一般的に試験は、Oil Res I および Oil Res II 試験と呼ばれ、試験では指定された時間、 サンプルケーブルシースが高温下で IRM 902 という油に連続浸漬されます。合格判定は、浸透後の引張強度と破断伸度によって決定されます。2000 年、Lapp はさらに厳しい基準 の作成について UL に持ちかけ、その結果耐油性を新しい水準に引き上げる AWM style 21098 が作られました。LAPP の多くの製品では、UL や IEC 規格に準拠した耐油性を検証しています。
【引張強度と破断伸び試験方法】
ここでは、具体的にどのような方法で、耐油試験を行っているのかを説明します。
例として、製品のシースが UL Oil Res IIへ準拠しているか試験するとします。引張強度と破断伸び試験は、引張試験装置を使用し、油浸透前(劣化前)および油浸透後(劣化後)ケーブルシースの両方の試験サンプルで実施し、UL 規格 2556 で定義された方法で準備する必要があります。ダイカットダンベル状試験片をケーブルシースからくり抜き後、引張強度と破断伸度を試験します。
サンプルは以下のように準備します。
1.ダンベルサンプルの中心から等間隔に 2つマークをつけます。マークの間隔は、1.3 インチ(約 33mm)とします。(下図の赤丸を参照)。マークは引張試験装置の引張方向に対して直角に付けられます。
2.グリップの外側とグリップの間に 1 イ ンチ(25mm)のマークを付け、そこにサンプルを引張試験装置に取り付けます。
3.サンプルは破損するまで、毎分 50cm の 速度で引っ張られます。試験後、破断伸びと破断時重量の結果を記録します。引張強度は、重量を試験片の断面積で割ることで求められます。
【ダンベルサンプルの例】
試験前のダンベルサンプルは、UL Oil Res II の要件により75℃で 60 日間油に浸透されます。60日が経ったら、サンプルは最低16時間放置され、次に引張強度と破断伸度の試験を実施します。サンプルは油浸透前時の65%を保持している必要があります。
以下は Oil Res II 試験結果の例です。
サンプル | 引張強度 (N/㎟) | 破断伸度 (%) | 引張強度 保持率 (%) | 破断伸度 保持率 (%) |
---|---|---|---|---|
油浸透前 | 25.5 | 167 | - | - |
油浸透後 | 25.0 | 129 | 98 | 77 |
サンプル | 引張強度 (N/㎟) | 破断伸度 (%) | 引張強度 保持率 (%) | 破断伸度 保持率 (%) |
---|---|---|---|---|
油浸透前 | 25.5 | 167 | - | - |
油浸透後 | 25.0 | 129 | 98 | 77 |
Oil Res II 合否判定
【判定基準】:
浸透前の引張強度と破断伸び値の 65%
引張強度 65%(25.5N/㎟) = 16.6N/㎟以上
破断伸度 65%(167%) = 109%以上
劣化前の引張強度: 25.5N/㎟
劣化後の引張強度: 25.0N/㎟
保持率: 25.0N/㎟÷25.5N/㎟ x100 = 98%
[判定]:合格
劣化前の破断伸び値: 167%
劣化後の破断伸び値: 129%
保持率: 129%/167% x 100 = 77%
[判定]:合格
ケーブルの耐油性・耐油性試験について
電線・ケーブルの寿命と性能に影響を及ぼす化学物質の中でも、油は特にダメージの大きい物質です。油は、工業環境およびインフラストラクチャ環境で冷却材や潤滑剤として多く使用されますが、ケーブルの絶縁体およびシースに使用されるポリマーに分子損傷を与えることがあります。
電線・ケーブルが耐油性に劣る場合、最終的には、ケーブル破損やダウンタイム、交換費 用などが発生します。
耐油性については、クーラントおよび潤滑油に対する耐油性を考慮したケーブルを選定する事が重要です。以下では、油によるケーブルの劣化、油浸漬問題の調査方法、長期にわ たる耐油性ケーブルの選定について説明します。
【油によるケーブル劣化のメカニズム】
なぜ油によってダメージを受けるもの、受けないものもあるのでしょうか?ポリマー化合物は同じ族に分類されていても、すべて同じ性能があるとは限らないというのが主な理 由です。耐油性を含む物理的特性も多くの場合異なります。
例えば、一言で PVC といっても、その PVC 化 PVC 合物の中には、難燃性の高いものも あれば、耐油性や殉難性に優れているものもあります。PVC の配合は、目的の特性と用途 に応じて難燃剤(ヨウ素)、安定剤やフィラーなどを配合調整(コンパウンド)し目的の特性 を最大限発揮させます。ただし、特定の PVC 特性が強化されると、その他の性能特性が影 響を受けたり、完全に失われたりするといったマイナス面もあります。
特に耐油性においては、すべての電線・ケーブルの絶縁体が同等に作られているわけでは ありません。電気的特性や耐環境性、機械的保護(耐メカニカルストレス)、耐薬性などもコ ンパウンドによって異なります。また、絶縁化合物には、コンパウンドに可塑剤が特定量含 まれており、柔軟性と耐久性の向上に有効です。
一般的な PVC コンパウンドなどは、潤滑油およびクーラントにさらされると、材料が油 を吸収するか、可塑剤が化合物から拡散してしまいます。
図:油が吸収されると、化合物は膨張し軟化して引張特性が低下してしまいます。また油が複合可塑剤の拡散を引き起こすと、硬化が起こり、柔軟性および伸縮強度が完全に失われます。
シースに油が浸透し、絶縁体にまで油が浸透すると、絶縁破壊をおこし、効果的な絶縁体として全く機能しなくなってしまいます。絶縁体が機能しなくなると、人命だけでなく、接続されている産業機械の総合的機能にも非常に危険な状況を引き起こす可能性があります。これにより非常にコストの高いダウンタイム、修理、最悪の場合、機械全体の交換が必要になります。
【使用条件にも耐油性が左右する】
油が潤滑剤やクーラント、あるいはその両方を使用するアプリケーションも多くありま す。双方の一般的な用途としては、以下が挙げられます。
- 潤滑剤: 摩耗防止や円滑な動作のためにモーター駆動のギアシステムに使用されます。
- クーラント: 機械の旋盤加工中に金属が過度に熱くならないように使用します。
また、工場だけでなく、インフラストラクチャアプリケーションでも油にさらされる場合があります。例えば、風力タービンでは、ナセル内部の高い場所に設置されたケーブルは、 長期間にわたって潤滑油およびクーラントに常時さらされる可能性があります。
さらに、風力タービンなどの場合、極端な温度や他の化学物質にさらされることが多く、 油によるダメージをさらに加速させる可能性もあります。
油はケーブル損傷の原因の一つであり、多くの場合、温度などの他の劣化メカニズムと相互作用し、損傷を招きます。一般的に、油の接触率が激しく、周囲温度が高いほど、油による劣化が早くなります。
【油による損傷の回避】
油による損傷は、いったん受けてしまうと元には戻せません。しかし、耐油性を持つケーブルを選定することで防止できます。検討中のケーブルに使用されている特定のポリマー化合物に関する深い知識がなければ、どの製品に油の耐性があるかを見極めるのは困難です。
目視による耐油性診断方法
- ひび割れ – 可塑剤が完全に失われることにより、PVC が油やそのほかの化学物質にさらされることから発生します。絶縁体とシースが硬化し、ひびが入ります。
- 膨潤 – 可塑剤へ油が移動することにより、PVCが油やその他の化学物質にさらされることで発生します。絶縁体とシースの直径が著しく増します。
- 溶融 – 可塑剤の吸収および結合により、PVC が油やその他の化学物質にさらされることから発生します。化合物が軟化し、高弾性になります。
- 変色 – 絶縁体とシースの着色剤と一緒に可塑 剤が拡散することで、PVCが油やその他の化学物質にさらされることで発生します
ここでは、参考に UL 規格による耐油試験について説明します。
UL 規格による工業用耐油試験
名前 | 試験方法 | UL要件 |
---|---|---|
UL62 | 7 日間 60℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 75%保持 |
UL Oil Res I | 4 日間 100℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 50%保持 |
UL Oil Res II | 60 日間 75℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 65%保持 |
UL AWM 21098 | 60 日間 80℃で油浸 | 劣化前の引張強度と破断伸びの 65%保持 |
UL 規格や IEC 規格などで定義されている耐油試験は、基本的にシース材に耐油性があ るか無いかの判断となります。シース材に耐油性があれば、絶縁体に浸透せずにケーブル機 能が発揮できるという定義になります。
一般的に試験は、Oil Res I および Oil Res II 試験と呼ばれ、試験では指定された時間、 サンプルケーブルシースが高温下で IRM 902 という油に連続浸漬されます。合格判定は、浸透後の引張強度と破断伸度によって決定されます。2000 年、Lapp はさらに厳しい基準 の作成について UL に持ちかけ、その結果耐油性を新しい水準に引き上げる AWM style 21098 が作られました。LAPP の多くの製品では、UL や IEC 規格に準拠した耐油性を検証しています。
引張強度と破断伸び試験方法
ここでは、具体的にどのような方法で、耐油試験を行っているのかを説明します。
例として、製品のシースが UL Oil Res IIへ準拠しているか試験するとします。引張強度と破断伸び試験は、引張試験装置を使用し、油浸透前(劣化前)および油浸透後(劣化後)ケーブルシースの両方の試験サンプルで実施し、UL 規格 2556 で定義された方法で準備する必要があります。ダイカットダンベル状試験片をケーブルシースからくり抜き後、引張強度と破断伸度を試験します。
サンプルは以下のように準備します。
- ダンベルサンプルの中心から等間隔に 2つマークをつけます。マークの間隔は、1.3 インチ(約 33mm)とします。(下図の赤丸を参照)。マークは引張試験装置の引張方向に対して直角に付けられます。
- グリップの外側とグリップの間に 1 イ ンチ(25mm)のマークを付け、そこにサンプルを引張試験装置に取り付けます。
- サンプルは破損するまで、毎分 50cm の 速度で引っ張られます。試験後、破断伸びと破断時重量の結果を記録します。引張強度は、重量を試験片の断面積で割ることで求められます。
ダンベルサンプルの例
試験前のダンベルサンプルは、UL Oil Res II の要件により75℃で 60 日間油に浸透されます。60日が経ったら、サンプルは最低16時間放置され、次に引張強度と破断伸度の試験を実施します。サンプルは油浸透前時の65%を保持している必要があります。
以下は Oil Res II 試験結果の例です。
サンプル | 引張強度 (N/㎟) | 破断伸度 (%) | 引張強度 保持率 (%) | 破断伸度 保持率 (%) |
---|---|---|---|---|
油浸透前 | 25.5 | 167 | - | - |
油浸透後 | 25.0 | 129 | 98 | 77 |
Oil Res II 合否判定:
【判定基準】:
浸透前の引張強度と破断伸び値の 65%
引張強度 65%(25.5N/㎟) = 16.6N/㎟以上
破断伸度 65%(167%) = 109%以上
劣化前の引張強度: 25.5N/㎟
劣化後の引張強度: 25.0N/㎟
保持率: 25.0N/㎟÷25.5N/㎟ x100 = 98%
[判定]:合格
劣化前の破断伸び値: 167%
劣化後の破断伸び値: 129%
保持率: 129%/167% x 100 = 77%
[判定]:合格